日本の財務省・金融庁が主導して「暗号資産版SWIFT」を創設する計画が国際的な機関であるFATF(金融活動作業部会)で承認されていたことが明らかとなりました。国内外の業界団体や専門家が連携して技術開発に当たり、数年以内の稼働を目指すということです。
今回は2019年7月現在わかっている範囲で「暗号資産版SWIFT」とは何かを追ってみたいと思います。
目次
「暗号資産版SWIFT」は何を目的としているのか
「暗号資産版SWIFT」の主目的はマネーロンダリング(資金洗浄)抑止です。この点では「FATA勧告」と目的は同じだということがわかりますね。仮にこのシステムが機能しはじめると、マネーロンダリング抑止だけではなくて、暗号資産が決済手段の一つとしての存在感を強める可能性があるとされています。
モデルとなったSWIFT(国際銀行間通信協会)とは
暗号資産版SWIFTも同じようなモデルを採用する可能性があるため、既存のSWIFTの送金システムについて理解を深めておきましょう。
SWIFTとは、銀行経由で国際送金する際に顧客情報をやり取りするネットワークシステム。世界中の金融機関が標準化された通信フォーマットで決済業務を行い、国際的な金融インフラとして機能しています。
【国内送金の場合】
日本国内の場合は、保有する銀行口座から指定の銀行口座に振り込むと簡単に送金を行うことができます。この時、お金が実際に移動しているわけではなく、ただ「電子信号(メッセージ)が送られているだけ」だということをポイントとして覚えておきましょう。
つまり、「A銀行の〇〇口座からB銀行の△△口座に送金した」というデータだけが銀行間でやり取りされています。現在の金融システムは、この電子信号のやり取りに信憑性を持たせるために「日本銀行が中央銀行として電子信号の管理」をしています。
つまり、銀行の大事な役割は、「電子信号の管理」と「電子信号の信憑性の管理」ということになり、これが送金手数料(信用コスト)などの形で発生しています。
【国際送金の場合】
国際送金の場合は、国内送金の場合と異なり日本銀行が担うような世界の中央銀行が存在しないしません。そのため、SWIFTの海外送金ネットワークを用いて電子信号(メッセージ)のやり取りを行なっているのです。
国際送金の場合は、国内送金の場合と異なり外貨への両替が必要です。そのため両替に必要な複数の通貨ペアや莫大な備蓄資金(ノストロ資金)を用意しておく必要があります。つまり、この役割を小さな地方銀行が担うのは難しいため一部の「コルレス銀行(莫大な資金をもつ銀行が担う)」を仲介して国際送金が行われています。
暗号資産版SWIFT提唱のきっかけとなった「FATA勧告」とは?そのポイントと課題
暗号資産版SWIFTはFATA勧告の課題を受けて、その「代替案として提唱」されたものです。FATA勧告とは何かを知り、暗号資産版SWIFTの意図を理解しましょう。
2019年6月のFATA総会で、加盟国の法制度に拘束力が及ぶ「FATA勧告」について、「暗号資産の交換業者や保管業者」に適用することで合意されました。
この規制は銀行並みの規制強化を求めることが柱となっており、特に注目されるポイントは暗号資産を国内外交換業者を経由して送る際に、交換業者が送金元と送金先の口座番号、利用機関、住所などの情報を即時に共有し、必要に応じて当局も共有できる体制整備を義務付けたという点です。
しかし、P2Pでやり取りされる膨大な量の暗号資産取引を交換業者が送金先の個人情報まで取得するのは技術的なハードルが高く困難だとされていました。具体的には送金のたびに経由する業者と相対で個人情報をメールでやり取りするには取引が多すぎて対応しきれない可能性が高いということです。
※2019年7月現在、犯罪収益移転防止法では、交換業者に本人確認義務は課されているが、送金先情報の取得義務に関する法規制は未整備。
暗号資産版SWIFT創設の意図
上述の「FATA勧告」を受けて各国が直ちに国内法を整備することが難しいため、その代替案として「各国が個別に対応する必要性のないシステム(上述のSWIFTのようなネットワークシステム)」を構築することを目指し、「暗号資産版SWIFT」が提唱されました。※暗号資産版SWIFTの詳細な仕組みについては公にされていません。