分散型予測市場(Decentralized Prediction Markets)、略してDPMsの特徴と概要について今回はご説明していきます。
ご紹介する内容は、「予測市場ってなに?」という基本的なところから、「その種類」「何に役立つのか」「集権型でなく分散型であることのメリットは?」「予測市場プロトコルの簡単紹介」ということについてザックリとご紹介致します。
目次
【予測市場とは?】
予測市場とは、その名の通り「未来の予測」を取引する「市場」のこと。または「予測を共有する場」と言い換えることもできます。
例えば、「明日の東京都は雨が降るのか」など天候に関わるものや、「日本のGDPが次期4半期に上昇するのか」「日本アカデミー賞を今年はどの作品が受賞するのか」など凡ゆる事象に対するみんなの未来予測を共有する場として機能します。
【分散型予測市場には2つのタイプのマーケットがある】
予測市場には2つのタイプのマーケットが存在します。
一つは「はい/いいえ」で単純に答えられる予測市場。「バイナリーマーケット」と呼ばれるもので、例えば「明日の〇〇地域は晴れる?」などは「はい/いいえ」で答えられるので、このタイプに含まれます。
もう一方のタイプは、「はい/いいえ」では答えられない事象を扱うマーケット。例えば「明日の〇〇地域の平均気温は?」などのように、正確な数値を言い当てることが難しい事象を取扱う際に用いられるマーケットです。これを「スカラーマーケット」と呼び、2つのポイント(下限と上限)を設けて、最終の結果がどちらのポイントに近いかを予測するというものです。
各マーケットの価格決定方法など、より詳しい仕組みについては下の記事をご参照ください。
【分散型予測市場は何に役に立つのか?】
予測市場は、政治的選挙や天候、経済成長、住宅価格、インフルエンザの流行の広がりなどの検証可能な事象予測に役立つとされています。と言われても抽象的でよくわからないので以下具体例を出します。
カスタマイズ可能な保険としての機能
例えば、仮に明後日の連休を楽しむために九州への旅行を手配していたとします。しかし運悪く南の方で台風が発生しそうな雰囲気…もしかしたら予約していた飛行機が飛ばないかもしれない。そうなると飛行機代だけでなく予約していたホテルなどにもキャンセル料が発生してしまいます。
そんな時に、「分散型予測市場」で「明後日に台風が九州上陸する?」という質問を予測市場に立てることで、このキャンセル料発生リスクをヘッジさせることが可能になるのです。
つまり誰もが、いつでも、どこでも「カスタマイズ可能な保険」をつくることができるというのが「分散型予測市場」の一つの特徴だということもできます。
未来予測としての精度が高いとされている「群衆の知恵」
上述したように、自身でマーケットを作成するということももちろんできますが、誰かが立てたマーケット予測を閲覧するという際にも役立ちます。例えば「次の四半期の日経平均株価はどうなる?」みたいなマーケットが出ていれば、それを閲覧することでみんなの意見を把握することもできます。
ここで気になるのはみんなの意見がプロの意見よりも「予測としての精度が高いのか」です。未来予測は専門家に限らず、一般の方々もSNS上でも「こうなるだろう」という予測を立てています。「当たるも八卦、当たらぬも八卦」という言葉が昔からあるくらい予測は当たらぬこともあれば当たることもあるから最終的には自分で判断することになります。しかし可能であれば予測が当たる確率が高い方が参考にはしやすいですよね。
分散型予測市場のポイントは「ある専門家による意見ではない」というところです。この分散型予測市場は、集権的な予測市場とは異なり「群衆の知恵」を元にして成り立っています。「群衆の知恵」とはジェームズ・スロウィッキーが提唱した予測モデルで、簡単にいうと個々の決断による意見を集約した予測は、個々(専門家も含む)の意見によるものよりも、良い結論を導くことができるとされています。
注意しておきたいのは、個々に意見を出し合ってみんなで議論した結果から導き出した意見を「集団的知性」と呼ぶのに対して、「群衆の知恵」の場合は、互いに影響を与えずに個々に決断し、その意見を集約したものであるという点です。
【分散型予測市場はどんな点で優れているのか?】
分散型予測市場は英訳すると「Decentralized Prediction Markets/略してDPMs」となります。Decentralized、つまり特定の組織に管理されているわけではなく、非中央集権的な管理によって成り立っているということです。
そのことから「Open/公に開かれている」「Free(almost)/ほぼ無料」「Reliable/信頼性」「Resilient/検閲耐性」という特徴を有しています。それぞれザックリと以下説明していきます。
「Open/公に開かれている」
インターネットに接続することさえできれば「誰もが、どこでも、いつでも」予測を取引したり、マーケット(予測したい事象に対する質問)を設定することができます。
例えば農作物を栽培しているある農夫が干ばつのリスクをヘッジさせるために、わずか数クリックでカスタム可能なデリバティブ商品を作成することができるということです。既存の集権的マーケットである金融組織などを介すると膨大な金銭、労働コストが発生する点を踏まえると、その点で優位性があるといえます。
「Free(almost)/ほぼ無料」
管理者が実質いないので、ほとんど無料で使用できるのですが、一部ネットワークを保護する必要がある場合のみ手数料が発生します。
「Reliable/信頼性」
分散型予測市場は、ブロックチェーン技術を用いることで第三者を信用しない形でP2P取引を行うことができます。そのため、自分の資金を預ける際に誰かを信用する必要はありません。つまり、資産を預けていた先が倒産するなどのカウンターパーティリスクを回避することができます。これはリスク回避の優位性とともに、本来かかる信用コストの削減に繋がるともいえます。
「Resilient/検閲耐性など」
分散化されたシステムによって管理さえているため、特定の組織によって検閲され、資産を強制的に凍結されてしまうというようなリスクに対して耐性を持っています。またシステムを分散管理しているため、単一障害点がなく悪意ある攻撃に対しても耐性を有していると言えます。
以上4つの特性を合わせ持つ分散型予測市場は、「世界規模で」「開かれた」「ボーダレスな」流動性プールになり得る可能性があり、世界中の情報を収集し、集約するための効率的なマーケットとして機能する可能性を秘めているといえますね。
分散型予測市場プロトコルの紹介
最後に分散型市場プロトコルを簡単にご紹介して今回は終わりにします。
分散型予測市場プロトコルには、イーサリアム上に構築されているものと、その他のブロックチェーンであるビットコインやQtumなどに構築されているものがあります。
イーサリアム上に構築されている分散型市場プロトコルは「Augur」「Stox」「Gnosis」があり、イーサリアムのスマートコントラクトを用いて市場を形成しています。
スマートコントラクトとは、第三者ではなくコードによって書かれた契約のことであり、契約をコードによって強制され、記述通りに実行されることが保証されています。例えば「明日は雨」だと予測した場合に、本当に雨が降った場合、「自動で契約が履行」されそれに対する報酬が振り込まれるという仕組みです。
イーサリアム上で機能しているAugurについては以下の記事でまとめているので、よろしければ参照してください。