最近のデジタル化の進行により、我々の日常生活、特に金融の世界は急速に変わってきています。
特に仮想通貨の普及はその代表的な例で、その中でも「ステーブルコイン」は大きな注目を集めています。
しかし、「ステーブルコイン」この言葉を聞いたことはあっても、具体的にどのようなものなのか、どのように機能するのか、理解している方は少ないのではないでしょうか。
本記事では、そんなステーブルコインに焦点を当て、その基本的な定義から仕組み、そして種類に至るまでをわかりやすく解説します。さらに、ステーブルコインの役割と重要性、そしてその将来展望についても触れていきます。
デジタル通貨の世界は複雑で一見すると理解しにくいかもしれませんが、それを理解することで新たな視点を得ることができます。
✔️ステーブルコインとは、その価値が一定の資産に連動するように設計された仮想通貨の一種
✔️ステーブルコイン発行量と等価の法定通貨が発行者の銀行口座に保管されることで価値が担保される仕組みになっていることが多い
✔️日本でのステーブルコインの発行も可能になり、今後より普及されていくと予想される
ステーブルコインとは
ステーブルコインの基本的な定義
ステーブルコインとは、その価値が一定の資産(通常は法定通貨、例えば米ドルやユーロ)に連動するように設計された仮想通貨の一種です。
ステーブルコインは、ブロックチェーン技術を用いてデジタル化され、分散型の性質を持つとともに、その価値を安定させる目的を持っています。
仮想通貨市場は非常にボラティリティが高く、価格変動が激しいことで知られていますが、ステーブルコインはその名の通り「安定した価値」を提供しています。
これにより、価値の振れ動きを最小限に抑えることで、ユーザーが価値の大幅な下落や上昇から身を守ることが可能です。
ステーブルコインの役割と重要性を解説
ステーブルコインの主な役割は、仮想通貨市場に安定性をもたらすことです。
価格の大きな変動が日常的に起こる仮想通貨市場において、ステーブルコインはその価格の安定性から「安全な港」とも言える存在となっています。
この特性は、大きなリスクを避けたいトレーダーや投資家にとって、また仮想通貨決済をスムーズに行いたいと考える企業や個人ユーザーにとって、非常に魅力的です。
さらに、ステーブルコインは仮想通貨と法定通貨の間での資金移動を効率的かつ迅速に行うためのブリッジとしての役割を果たします。
これにより、ユーザーは時間や場所に関係なく、瞬時に資金を移動させることが可能になります。特に、銀行口座を持つことが難しい地域に住む人々にとって、ステーブルコインは金融へのアクセスを向上させ、金融包摂(Financial Inclusion)を推進する重要なツールとなり得ます。
そのため、ステーブルコインは単なる価格安定のツールだけでなく、新たな金融の形を創造し、金融システムそのものをデジタル化・グローバル化するというより広範な役割を持つ存在とも言えます。
ステーブルコインの仕組みをわかりやすく解説
ここでは主なステーブルコインの仕組みを簡単に3つ紹介します。
- Fiat-backed ステーブルコイン
- Crypto-backed ステーブルコイン
- Non-collateralized ステーブルコイン
Fiat-backed ステーブルコインの仕組み
Fiat-backed(法定通貨裏付け型)という仕組みは、ステーブルコインの中で最もよく使われる仕組みです。
Fiat-backed(法定通貨裏付け型)のステーブルコインは、その価値を特定の法定通貨(例えば米ドルやユーロなど)と連動させることで安定性を確保しています。
これらのステーブルコインは、通常、1対1の比率で法定通貨に裏付けられています。
つまり、発行される各ステーブルコインのために、等価の法定通貨が発行者の銀行口座に保管されています。
これにより、各ステーブルコインは裏付けとなる通貨と等価の価値を持つことが保証されます。
Crypto-backed ステーブルコインの仕組み
Crypto-backed(暗号資産裏付け型)のステーブルコインは、他の暗号通貨(例えばイーサリアムやビットコインなど)によって価値が裏付けられています。
これらのステーブルコインは、比較的複雑な仕組みを持ち、スマートコントラクト(ブロックチェーン上の自動実行契約)を用いてその価値を維持します。
価値の変動が激しい通貨に裏付けられているため、通常、過剰担保が必要となります。つまり、1単位のステーブルコイン価値を確保するために、それ以上の価値の暗号通貨を裏付けとして保有することで、価格変動に対するリスクを管理します。
Non-collateralized ステーブルコインの仕組み
裏付け資産を持たないステーブルコインは、通常、アルゴリズムを使用して供給を調整し、価格を安定させます。
これは、市場の需要と供給の原則に基づいて動作します。
市場での需要が高まると、アルゴリズムはより多くのコインを生成(供給を増やし)します。
これにより、価格の上昇を抑制しようとします。逆に、需要が低下するとアルゴリズムは新たなコインの発行を停止したり、既存のコインを市場から購入して破棄するなどして、コインの供給を減らし、価格の下落を防ぎます。
裏付け資産がないため、その価値は完全にソフトウェアと市場信頼に依存しています。
ステーブルコインの種類
ここでは、代表的なステーブルコインを紹介します。
Fiat-backed ステーブルコイン(USDT, USDC, BUSD)
Tether (USDT)
Tether(USDT)は、流通量が最も多いフィアット裏付け型のステーブルコインで、その価値は米ドルと1対1で連動しています。
つまり、1 USDTは常に1米ドルの価値を持つことを目指しています。Tetherは、香港に本社を置くTether Ltd.によって発行され、この会社は発行したすべてのUSDTに対して、同等の米ドルを裏付け資産として保管していると公言しています。
これにより、USDTの価値が安定しており、その信頼性が保証されています。
USD Coin (USDC)
USD Coin(USDC)もまた、1対1の比率で米ドルに連動するフィアット裏付け型のステーブルコインです。
USDCは、アメリカの大手暗号資産取引所であるCoinbaseと、金融サービス企業のCircleによる共同プロジェクト、CENTRE Consortiumによって発行されています。
発行されるすべてのUSDCに対して、同等の米ドルが裏付け資産として保管されているため、USDCの価値は常に安定しています。
Binance USD (BUSD)
Binance USD (BUSD)は、BinanceとPaxos Trust Companyのパートナーシップにより生まれたフィアット裏付け型のステーブルコインです。
これは、1対1の比率で米ドルに連動し、全てのBUSDは対応する米ドルによって裏付けられています。BUSDは、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)によって承認されたレギュレーテッドなステーブルコインで、Paxos Trust Companyが保有する米ドルによって裏付けられています。
Binanceはこのステーブルコインを利用して、その取引所での取引を円滑化し、ユーザーが暗号資産とフィアット間で容易に移動できるようにしています。
Crypto-backed ステーブルコイン(DAI)
DAI
DAIは、デジタル資産であるイーサリアム(ETH)を裏付けとする暗号資産裏付け型のステーブルコインで、MakerDAOプロトコルによって発行されています。
DAIは、1DAIが1米ドルの価値を持つことを目指して設計されています。しかし、その裏付けとなるイーサリアムの価値は市場によって変動するため、価値の安定を維持するためにはスマートコントラクトと呼ばれる自動化されたブロックチェーン上の契約を利用した複雑なメカニズムが必要となります。
Non-collateralized ステーブルコイン(FRAX)
Frax (FRAX)
Fraxは、フラクショナル・リザーブ方式に基づいた、独自のモデルを採用した非担保型ステーブルコインです。
これは半分が暗号資産(FRAXの場合は、専用のステーブルコインFRAXシェア(FXS))によって裏付けられ、残り半分がアルゴリズムによる供給調整によって価格が安定化されるという特徴を持っています。
このモデルは「フラクショナル・リザーブ・ステーブルコイン」と呼ばれ、金融の世界では中央銀行が通常の法定通貨を管理する方法に似ています。
FRAXは1米ドルの価値を保つよう設計されており、市場の需給バランスに応じて自動的に供給量が調整されます。
ステーブルコインの将来展望を解説
ステーブルコイン市場の歴史
ステーブルコインの市場は急激な成長を見せております。
ビットコインの出現により、2009年に暗号資産の時代が幕を開けました。しかし、ステーブルコインが広く使われ始めたのは最近のことです。
2020年の初頭には、ステーブルコイン市場の時価総額は1兆円に満たない状態でしたが、2022年12月の時点で、その額は20兆円を超えるようになりました。
ビットコインやイーサリアムなどのような変動性の高い暗号通貨とは対照的に、ステーブルコインは一貫した価値を保持し、トレーダーに安定した資産としての役割を提供します。
そのためか、暗号資産市場が大きく後退した2022年でも、暗号資産の総時価総額は2021年のピークから大きく下落した一方で、ステーブルコインの総供給量はあまり落ちずに高いレベルを維持しています。
規制の影響
しかし、ステーブルコインの急速な成長に伴い、規制当局からの注意も集まっています。一部の規制当局は、ステーブルコインが金融システム全体にリスクをもたらす可能性があると懸念しています。
その結果、これらの規制当局はステーブルコインの運営に対する透明性を要求したり、投資家保護のための規則を導入したりしています。
さらに、規制当局はステーブルコインの裏付け資産の管理や、その価値を保つためのメカニズムを検討しています。これらの規則は、ステーブルコインの安定性を確保し、投資家の信頼を維持するために重要です。
規制は、ステーブルコインの将来の展開に大きな影響を与える可能性があります。
しかしながら、これらの規制がどのように進展するかは、まだ不明確です。
規制当局とステーブルコインの発行者が協力して、安全で透明性のあるステーブルコインのエコシステムを作り上げることが求められます。
日本のステーブルコインの状況
2023年6月1日の改正資金決済法施行により、日本の法定通貨を裏付けとするステーブルコインが発行可能になりました。
このことは、日本の金融・ブロックチェーン業界に大きな影響を及ぼすと予測されます。
具体的には以下のような状況が考えられます。
- ステーブルコインの普及
法整備が進んだ結果、企業や個人がステーブルコインを利用する障壁が低くなると考えられます。ビジネス用途だけでなく、個人が日常的な支払いに利用する機会も増えるでしょう。また、ステーブルコインが普及すれば、クリプトカレンシーに関する理解も広まりやすくなるでしょう。 - 新規ビジネスの誕生
ステーブルコイン発行が可能になったことで、新たなビジネスモデルやサービスが誕生する可能性があります。例えば、金融サービス、決済サービス、リミッタンス(送金)サービスなど、既存の金融業界に大きな影響を与える可能性があります。 - 規制との関係
一方、新たなビジネスが生まれると同時に、それに伴う規制も必要になる可能性があります。ステーブルコインが増えると、ユーザーの資産保護、不正利用防止、AML(反マネーロンダリング)などの観点から、規制が強化される可能性があります。 - 国際競争力の強化
ステーブルコインの法整備が進むことで、日本はデジタル通貨の先進国としての地位を強化することができます。他国との競争力を保つためには、技術の進歩とともに適切な法整備が必要となります。
【まとめ】ステーブルコイン
この記事では、ステーブルコインの基本的な定義、役割、仕組み、種類、そしてその将来展望について詳細に解説しました。
ステーブルコインは仮想通貨市場のボラティリティを抑制し、トレーダーや投資家に安定性を提供します。また、金融包摂を推進し、仮想通貨と法定通貨間の効率的な資金移動を可能にするなど、金融システムをデジタル化・グローバル化する可能性を秘めています。
一方で、規制当局からの注意も集まっており、それがステーブルコインの将来の展開に大きな影響を与える可能性があります。
この技術が急速に進化し、法規制が変わる中で、私たちは常に情報をアップデートし、これらの変化に対応していく必要があります。
ステーブルコインがもたらす未来に期待しつつ、その挑戦と機会を理解し、それぞれが適切な判断を下せるよう努めましょう。