デジタルIDとは、個人データとオンライン上の行動から構成される個人または組織のアイデンティティのことです。このデータは、「データ属性」と「行動データ」に大きく大別され、前者が個人にひもづく情報、後者があなたの行動、訪問履歴などのデータを含んでいます。
今回取り扱うテーマは「デジタル・アイデンティ/ID」です。インターネットが普及し、オンラインとつながりっぱなしになりつつある私たちの日常において、デジタル上の個人情報がどのように取り扱われているのか、またそれを取り巻くネット社会の課題についてざっくりご案内します。
つながりっぱなし時代の「デジタルID」問題
デジタルIDに含まれる情報
「データ属性/Data Attributes」に含まれているもの(一部)
- ユーザーネームとパスワード
- 誕生日
- IDナンバー
- 医療データ
- 銀行・クレジットカード情報
「行動データ」に含まれているもの(一部)
- Facebook上の「いいね」や「コメント」
- インスタグラム上の写真
- フォーラム投稿
- 検索クエリ※検索するときに打ち込んだ言葉やフレーズのこと
- ジオタグ※写真やTwitterのツイートなどにタグとして追加できる地図上の位置(緯度・経度)を示す数値データのこと
デジタルIDが抱える問題
上記の情報はデジタルIDに含まれる情報の一部でしかありません。これらの情報が悪意ある人の手に渡ると何ができるのかはお察しください。
実は2019年だけでも、大手IT企業であるMicrosoftとFacebookはデータ侵害に晒されています。これら巨大企業ですら、私たちのデジタルIDの管理に苦心しているということです。
ちなみに大部分の個人データは一般にマーケティング目的で販売されています(合法)。これらのデジタルID情報は、オンライン購入や新しいアプリを利用したとき、銀行利用、求人応募、政府ポータルを利用するたびにオンライン上に蓄積されていきます。これら多くの個人情報の管理は「第三者」を信用するという前提を元に成り立っています。
知っておいて欲しいのは、信頼できる相手に情報提供しているから大丈夫と思っていても、その相手があなたのデジタルIDの管理を放棄して、販売してしまうということもあります。
ブロックチェーンはデジタルIDの問題を解決するのか?
ビットコインなど仮想通貨を支える技術「ブロックチェーン」が、デジタルIDの問題を解決するかもというと多くの人が「はぁ?」と懐疑的になるのが普通かなと思います。
ビットコインそのものが通貨として、世界経済にとって実行可能な選択肢の一つになるのかというと、筆者もやはり多くの点で疑問を感じてしまいます。
ですがそのことと、この基盤となる技術「ブロックチェーン」については別で、技術そのものには価値があると認識しています。
デトロイトの2019年グローバルブロックチェーン調査
デトロイトの2019年グローバルブロックチェーン調査(Deloitte’s 2019 Global Blockchain Survey)によると、「組織の86%がブロックチェーンが将来的にメインストリームとなる可能性がある」という判断をしています。(上画像)
※従来のIT技術と比較してよりセキュリティの高い技術であるという点に着目をしてメインストリームになる可能性がある
86%が支持しているからといって、必ずしも正しいというわけではありませんので、一つの参考データとして捉えていただくと良いかと思います。
ブロックチェーンがデジタルID盗難を防ぐ
ブロックチェーンは、単一のエンティティではなく、コンピュータのクラスターによって管理されています。要はgoogleのように単一の組織に管理されているわけではなく、ネットワークに接続された世界中に点在する複数のノード(コンピューター)によって管理されているということです。つまり第三者を信用しない形でP2Pネットワークを形成しています。
このようにして管理されているデータは暗号化されたブロックにまとめられ、一度入力をすると、データの削除、編集、または複製を行うことが非常に難しくなります。
基本的な仕組みを知りたい方は下の記事をご参照ください。
個人情報を含むデータを保存する先としてブロックチェーンを用いることで、偽のビットコインがネットワークに侵入するのが難しい(二重支出という)のと同じように偽のデータの複製が難しくなります。つまり二人以上で同じIDを使うことが難しい為「信頼できるデータ」となるということです。
このように作成されたデジタルIDは、所有者だけがアクセスすることができます。そして、そのIDを用いて様々なサービスにログイン可能になる(シングルログイン)ため、サービスごとの個人情報を書き換えるというめんどくさい作業が不要になるというメリットがあります。
ユーザーだけでなく、企業側にもメリットがある
ブロックチェーンで管理されたデジタルIDは、ユーザーだけでなく企業側にもメリットがあります。
まず第一に企業が欲しいのは「信頼できる個人データ」であり、嘘の情報が入った情報ではありません。
たとえばTwitterのフォロワー数などのように、「フォロワー数といいねの数」が「発言の中身」と一致しないということは多々あります。複数アカウントを作成できるTwitterはフォロワー数を取引できますし、またフォロワー数の多寡が(それが擬似的なものであるとしても)企業の広告Tweetの価格に影響します。
典型的なNo Skin in the Gameを利用した事例ですね。このように複製可能なデジタルIDには、企業が本来必要とするものとは異なる偽の情報で溢れ、商品としての価値がなくなりつつあります。※その為ブロックチェーンを用いた個人のアイデンティティは自己資産の一つとして捉えることもできます。
第二に、個人情報を分散型で個人の責任のもとで管理してくれるのであれば、自社で管理する必要はなくなります。つまり、年々増加するデータ保護にかけていた膨大なコストを削減することができます。